賽銭BOX

賽銭としての思考、祈りとしての日記。

台湾でランタンを飛ばしてきた話

先日、友人たちと台湾へ旅行に行った。2泊3日の旅程の割には諸々手配してくれた友人の手際がよく、ほぼ台北のみだったとはいえ大変充実した旅行になった。夜市の猥雑な雰囲気や屋台も堪能した。(臭豆腐なるものは、いざ食べてみるとそこまで不味いわけでもないが、逆張りしてお勧めするほどに美味しいわけでもなかった、とだけ述べておこう。モツ煮込みそうめんは美味しかった。)

 

初日の十扮での出来事を話そう。台北から瑞芳、瑞芳から平渓線というローカル線(箱根登山鉄道みたいな雰囲気だった)に揺られること20分程度で着く台湾北部の街だ。いわゆる映え的なものなのか、十扮ではランタン飛ばしが観光の名物となっている。

 

ランタンと聞いた僕はHeaven Burns Redの4章後編で逢川めぐみが飛ばしていたような小型のものを想像していたが、実際には大人ひとりでやっと抱えられる程度の巨大なサイコロ型ランタンが登場して度肝を抜かれた。ランタンの色ごとに効能?が分けられており、青が夢、黄色が事業や学業、白が健康といった風になっている。少し料金を足すと4面を全て違う色に塗り分けられるオプションがあったので、欲張りな我々は是非もなくオプションを申し込んだ。

ランタン飛ばしの料金表。

 

色分けされたランタンの面にサインペンで願い事的な何かを各々書く流れになったのだが、これが非常に困った。ブログを始めた際にも書いたように、僕は名前を付けるのが非常に苦手だ。名前とは一種の意志や願望を指すので、名前がよくわからない人間は当然自分の願いもよく分からない。プロフィールアイコンにしているマギレコの黒江もまさにそういうタイプの人間で、彼女との出会いは僕の人生を静かに、しかし決定的に変えてしまったのだがこの話はまた別の機会に譲ろう(?)。とにかく、ここで大事なのは、友人たちがせっせとそれらしい願い事ーー年収1千万とか、彼女を作るとか、体脂肪率を下げるとか、そういった類の下らないけど切実な、地に足のついた願望ーーを書いていくなか、僕はサインペンを片手に動けなかったことだ。混乱した僕は健康の欄に視力が良くなるように、事業の欄に新卒で入る会社を3年はやめないように、極めつけは金運の欄に5千万とだけ書き、大いに滑った。別に5千万で何か具体的に買いたいものがあるわけではない。そもそも5千万なんて別に欲しくはない。都内で一人暮らしをして好きな本やアニメのグッズを躊躇せずに買うことができ、それなりに貯金も可能な収入さえあればそれで構わない。(この願い自体が傲慢だ、という指摘はもっともだ)僕にとっての5千万は、今の無味乾燥な生活を変容させるなにものかへの曖昧な願望の現れ以外の何物でもなかった。無邪気に1億円といえる小学生の方がよっぽどマシだ。

 

同じことは就活でも問われる。面接官にも、家族にも問い詰められる。あなたが本当にやりたいことは何なのか、と。正直にいって、やりたいことなどない、と言うのが本音だ。極端な話、世間体や収入など一切気にしないのであれば工場や倉庫のアルバイトで食いつないでいっても良いとさえ思っている。大体、本当にやりたいことなど「本当に」あるのだろうか? やりたいことなんてものは遡行的に追認されるだけで、あるのは適正だけではないのかと、僕は思う。まあこれも彼らに言わせれば世間知らずのガキの遠吠えに過ぎないのかもしれないけれど。黒江に始まり、こんなありふれたつまらない問いに頭を悩ませながら、僕は頼りなく空へ浮かんでいくランタンを見送った。

曇天の中飛んでいくランタン。いずれ落下するそれは、誰が回収するのだろうか。